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〜 GC/gserthang08/09 〜

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『世界知識行 黄金の平原』 第八章 09  

  • pp. 265-266
  • 担当:海老原 修正:星

しかし、法身普賢以来、現在に至るまで、[ニンマ派の]師資相承の系譜には何千年もの歳月を経た[伝統ある]ものであり、[仏教を弾圧した]ランダルマ[王]の治世に多くの愚かな臣下がうろつきまわったからといって、それだけを見て、金[なる師資相承の尊い教えを]を土石もろともうち捨てるとはまた度胸があることよ。

ニンマ派のタントラだけはなく、一般に「般若智*1は善(ゲワ)である。それを求める(ロン)ので比丘(ゲロン)という」など[と言うが、これも語源のつじつまあわせであって、こうしたものは]新訳タントラ派にも現れた。

[そもそも]密教の儀式、威儀*2、奥義などはヒンドゥー教[のタントラ]と区別がつきにくいものも多く、尊格の図像は、ニンマ派よりも新訳タントラ派のほうがむしろヒンドゥー教と似ているという重大な疑義がある。このことはまた[中観派の巨匠バーヴィヴェーカがその著作]『論理の炎』 *3において、「ヴィシュヌの十化身の[うち九番目の化身を仏陀であるとする]説は、後代におけるヒンドゥー教徒の想像の産物であって,元々は存在しなかった」と仰せられているが、実際もまたその通りである。

しかしながら、時輪[タントラ]において「それ[すなわちヴィシュヌの十化身]を四有*4と結びつけるならば*5」と述べられていることや、他にも、[時輪タントラの教えを象徴する文字であるナムチュワンデンのうち、]へそでla、頭頂でhamの文字*6を瞑想する「燃焼と分泌」の行*7などが目指しているのもまた、それに対応した須弥山世界のありかた*8など、後代のヒンドゥー教の経典でよく知られているものにまた依拠して述べられたものであること、後に建設されたイスラム教徒の都市デリー*9の名前が出てくること、「我」の同義語であるla hamの文字が腹の中に自然に存在するのを観想するのはヒンドゥー教徒がアートマンを瞑想する深い方法*10である。

同様に、思索をめぐる努力*11に関する多くの細かい秘訣*12や、戯論と無戯論の行など[において]、ヒンドゥー教徒がおこなっていることかがはっきり認識できると、ささいな違いをいちいち[取り上げて、それを]ヒンドゥー教徒のやり方であるとして排除することは、細かく分析をしているかに見えて、[実は]議論のための議論と化している[ことがわかる]*13

そういうわけで、ヒンドゥー教徒をこき下ろすと、きりがないのは[原理的に]仕方がない[のだが、バーヴィヴェーカは]こうしたことについて少しばかり批判的に『論理の炎』を執筆なさった。

[ところでこき下ろすと言えば、バーヴィヴェーカは]はじめ一部の人によって大成就者と見なされていたが、密教を熟知していないかのような態度で「何であれ名を発しただけで、人は慚愧に堪えなくなる」*14など[とおっしゃり]、シヴァが灌頂を与えることを非難しておられる。しかしながらバーヴィヴェーカは、かつて勝ち得た己の宗派で[ヒンドゥー教の儀礼に由来する?]秘密灌頂、[般若]智慧灌頂など[がおこなわれること]にお考えが及んだ際には、それほどまで[酷い蔑み]はおっしゃってはいない。同列に数えられる方として、ダルマキールティも大成就者であるが、[やはり]そのような[発言が]散見される。

同様に一切智プトゥンは密教の偉大な法蔵大師であるが、『魔女を罵る輪』*15などを読むと、[密教の]根本堕罪などには注意を払っていないかのように見受けられる。あるいは、韻文による嘲りは特別だとでも言ったのかどうかはわからないが、三つの戒*16を有するラマの多くが、その女性をひどく蔑んでおられる*17

しかし、ツォンカパは、仏陀のおことばをくまなくご覧になっておられるので、そのご著書にはそうした[女性蔑視の言説を]わざわざ書いたものは見当たらないのではないかと思う。

コメント  

  • 法身普賢に関するwikipediaの項目wikipedia link
  • rnying ma'i rgyud tsam du ma zad kyi:yin gyiと同様,「〜だけではなくて」と次につなげる用法だと思われます。
  • glang dar gyi khrims 'og blun po'i lag g.yog sogs mang po 'grim ste byon pa yin pas de tsam mthong nas ...:ランダルマの治世に愚かな手下どもが跋扈したからといって,それだけを見て...(「愚かな手下ども」はランダルマ王の内大臣をつとめ,廃仏を煽動したと言われるsbas stag snaらを指すのかも)
  • mu stegs:外道や異教徒を指すが,ここではヒンドゥー教(徒)を指すと考えてよいと思われます。
  • rnying ma'i rgyud tsam du ma zad:ニンマ派の教えだけでなく(tsamは「程度」という意味と「...だけ」という意味がある)
  • rnying ma las kyang gsar ma rnams mu stegs dang 'dra che dogs gnas che ba yang:ニンマ派よりもサルマの方がヒンドゥー教とより類似性が高いという疑いが濃厚であるが
  • gsar ma:後伝期以降の諸派とでも訳す?(カギュー派,サキャ派,カダム派→ゲルー派)
  • rtog ge 'bar ba:バーヴィヴェーカの著作の一つで日本語では「論理の炎」または「思択炎(しちゃくえん)」と訳される。チベット語テキストはこちら→ACIP text
  • la ham:ヨーガ,チャクラ等をヒントに情報を探していたところ,各チャクラに対応するビージャ(種子)・マントラというのにそれぞれ対応するようです。ただし,見つけた東洋医学講座なるところのウェブサイトに掲載の表とGCが述べていることは必ずしも一致しませんが。link
    • 以上,とりあえずの星コメントでした。2007-01-05 (金) 08:05:19
  • ありがとうございます。いただいたコメント参考に一部修正しました。laとhamはちょっと感動的でした。 yumtso 2007-01-06 (土) 23:26:31
  • 'jug pa bcu'i gtam rgyud ...:「ヴィシュヌの故事は,後にヒンドゥー教徒によってねつ造されたものであって,元々は存在しなかった」『論理の炎』では,例えば「ヴィシュヌが山や木,水などあらゆる物に含まれている」といったような考え方を徹底的に排除しているのでそういったことを指しているのか?
  • gnas tshod:現実,実情,といった意味らしい。実際もまたその通りである,とかいうことかも。
    • hoshi 2007-01-10 (水) 00:47:56
  • 田中先生のご教授にしたがって直しました。
    • yumtso
  • さらに考察のうえ修正を加えました。まだまだ叩き台。田中公明先生ありがとうございました。
    • hoshi 2007-01-31 (水) 09:09:57

*1 shes rab ye shes。般若波羅蜜。
*2 kun sbyod。儀式の所作、装束など
*3 タルカジュヴァーラ。「思択炎(しちゃくえん)」とも訳される。
*4 sbyang gzhi。清められるべき基となるもの、すなわち、生から死までの四つの段階を指す。生有、本有、死有、中有。
*5 時輪タントラの六章に、ヴィシュヌの十化身と受胎から死までのプロセスを結びつける話が出てくる。詳しくは『超密教 時輪タントラ』(田中公明著、東方出版)IV, VIの各章を参照のこと。
*6 rnam bcu dbang ldanのhaM, ksha, ma, ya ,ra, la vaの七文字。haMは頭、laはへそに対応する。link
*7 'bar ‘dzags。チャンダーリの火、性エネルギーを燃焼させ、菩提心を分泌させる行。詳細は『性と死の密教』(田中公明著、春秋社、p. 178)を参照。
*8 sa'i chags tshulは須弥山世界、特に須弥山と外輪山、4つの大陸と8つの島の形状・面積・位置などを指す。
*9 時輪タントラの『無垢光疏』VimalaprabhAに言及されるのはデリーでなくメッカであるのでおそらくGCの認識間違い?
*10 瞑想において感想対象の形状がありありと心に顕現すること。
*11 rtog rtsol。
*12 man ngagは「瞑想に関するテクニック的な秘訣」を指す。
*13 GCが言いたかったのは、おそらく、実際には密教とヒンドゥー教は切り離すことができないほど密接な関係にあるというのが現実で、それを排除しようとしても根が深すぎて無駄とでもいうことか?
*14 マントラの効力に疑問を呈している?
*15 bdud mo la smod pa'i 'khor lo
*16 小乗の比丘戒・大乗の菩薩戒・密教の三昧耶戒の三律儀を指す。
*17 後期密教系の三昧耶戒では、般若智灌頂等においてパートナーとなる女性を軽蔑することは、罪深いとされており、本来ならば罵るべきではないけれども、と批判している。

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