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〜 ROB_00 〜

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序章(魔術師七兄弟に追われた若者がルドゥプ先生に救われる) 

試し訳です。段落は原文に従いました。分からないところは原文をWylie表記で示したり注釈をつけたりしました。chime

RO2_00_01 pp.1-3 

むかしむかしあるところに,七人の兄弟がおりました。彼らは魔術で変化(へんげ)すること,神通力の優れていることにかけてはそれぞれに優れていた*1ので,その土地の人々は彼らのことを魔術師の七兄弟と呼んでいました。そこからあまり遠くないところに,二人の兄弟が住んでいました。兄の名はセチェーと言い,弟の名はトゥンドゥプと言いました。兄のセチェーは,「魔術師の秘法を学んでバターやチーズやツァンバが手に入るようになったらいいなあ」と思い,魔術師七兄弟のもとに魔術で変化する方法を学びに行きました。

三年が経ちましたが,毎日魔術師たちの下働きをさせられるばかりで,魔術変化の秘法はちっとも教えてくれません。それどころか,彼らが魔術変化の術を行うときは,セチェーを遠くに仕事に行かせるのです。セチェーは食べるものにも着るものにも困っていたけれども我慢してそこにいました。

ある日弟のトゥンドゥプが食糧を持って兄のところにやってきて,兄と一緒に過ごしました。トゥンドゥプは賢くて勘がいいので,夜になって魔術師の七兄弟がいるところへ盗み聞きをしに行きました。すると魔術師の七兄弟はちょうど魔術変化の術を練習しているところでした。トゥンドゥプは物陰に隠れて,いろいろな魔術変化の術をはじめからおしまいまでじっくりと見て,魔術変化の術を余すところなく欠けるところなく間違いなく覚えました。そして兄のセチェーのいるところに戻り,寝ている兄を起こして,

「兄さん,魔術を学んでも覚えられるかどうか分かりません。ここで無理をしていても無駄です。ぼくら兄弟二人はうちに帰りましょう」と言いました。

セチェーは弟の言うことを聞いて,二人は夜通し歩いて家に帰りました。家に戻ると弟のトゥンドゥプは,

「兄さん,魔術を学んでも覚えられるか分かりません。うちの厩に上等の白馬mgo sna 'dzoms paがいます。この馬を魔術師七人兄弟のところへ連れて行かず,他の家に行って売って得た品物を持って帰ってきてください」と言うや,厩へ行って上等の白馬に化身しました。兄が厩に入って見ると,うっとりするほど美しい上等の白馬がいるのが見えました。うれしさのあまり,自分の弟がどこに行ったのかということも忘れて,笑いがこみ上げて口も閉じられなくなってしまいました。兄は,

「私は魔術変化の秘法を三年間学んでも覚えられなかったのに,うちの弟はこんな素晴らしい馬を見つけてきて,この弟は実に抜け目のないやつだ」と思いました。そしてこの名馬を売ったほうがいいのか,または自分の乗る馬にしたらいいのかと思って,あれやこれやたくさん思いを巡らせて,しばらくそこに居りました。

RO2_00_02 pp.3-4 

それから魔術師七人兄弟は,夜が明けて日が昇り始めると,セチェーの住まいに行って見たころ,セチェー兄弟は既に行ってしまった後で,家がもぬけの殻になっているのを見て,

「ああ,昨晩,魔術変化の術を訓練していたとき,気をつけていなかったから,この兄弟め,われわれの魔術の秘法を全て盗み見て覚えてしまったに違いない」と思いました。魔術師七兄弟は意地が悪くて乱暴者なやからばかりで,魔術師の上の兄がこんなふうに言いました。

「『暴れ馬を引くには長い手綱が要る。古木を切るには柄の長い斧が要る』とことわざにもあるように,我々はこの二人の兄弟をこれ以上遠くへやってはいかん。火は小さいうちに消さなければ草原が燃える危険が大きくなる。水は小さいうちにせき止めなければ国が浸水する危険が大きくなる。われわれ魔術師七兄弟はこの二人の兄弟の家の跡に草が生えるほどにしなければ,我らの名声も財産も収入もみな,まるで塵の山が風に吹き飛ばされるがごとくになってしまう。[何か]方策を講じて神通力を見せなければ」と言い,魔術師七兄弟は七人の商人に化けました。馬とラバに品物を載せて,トゥンドゥプ兄弟の住まいにやってきました。

セチェーは名前こそ「明るく照らす者」という意味だけれども,実は正直で間抜けだったので,七人の商人が魔術師の七兄弟だとはつゆ知らず,その旅人たちを家に招き入れてもてなしました。その上セチェーは,福徳の主は寝ていても福徳の品物が転がり込んでくるというのはこのことかと思っていました。魔術師の七兄弟は一目見て,杭につながれている上等の白馬がトゥンドゥプが化身したものだと分かって,セチェーにいろいろな商売の話をして,金百サンを馬代として支払い,その名馬は七人の商人のものになりました。

RO2_00_03 pp.4-6 

魔術師七兄弟は馬を引いて行く途中,この馬を屠って,肉を刻み皮を刻もう」と話して笑っていました。馬に化身しているトゥンドゥプは,言葉を話さないけれども頭ははっきりしているので,自分が殺されてしまうと知ってひどく恐れおののきました。川縁に着くと,魔術師七兄弟のうち上の六人はba ga btab,末の子に馬の手綱を握らせました。魔法で化身したその馬は,心は暴れ馬が跳ねるがごとく不安でいっぱい,心臓は子羊が飛び跳ねるようにどきどきしながら,ろくでなしの末っ子が気を緩めた機を逃さず,ぐいっと引いてすり抜け,鳥が罠を抜けるがごとく走り去っていきました。

魔術師七兄弟は馬が逃げるのを見て,打て打て殺せ殺せと言いながら追ってきました。今にも捕まりそうになったとき,魔法で化身した馬は川の中を見やると魚が泳いでいるのを見て,その瞬間に金の魚に化身して川に飛び込んで逃げました。すると魔術師七兄弟も七頭のカワウソに化けて追ってきます。またしてもbltas bltas rig rig la捕まりそうになったそのとき,金の魚が空を見上げると白い鳩が見えました。その瞬間くるっと回転して白い鳩に化身して,羽を羽ばたかせながら空高く飛んでいきました。魔術師七兄弟もすぐに七羽の鷹に化けて追いついてきました。そして今にも捕まりそうになりながら,命を省みずに飛んでいくと,大きな岩山の中程に岩穴があり,そこに飛び込みました。

その岩穴ではルドゥプ先生が瞑想修行を実践していらっしゃいました。その鳩は岩穴の中に飛び込むや,もとの姿を現して,先生に礼拝し,頂礼(ちょうらい)して,

「面白い話があればお上に言いなさい,体が辛ければ救済者にお願いしなさい,おいしい食べ物があれば両親に捧げなさい,真実の話があれば救済者に話しなさい[と言われている通りお話ししますと,]弱い私は魔術師七兄弟に追われ,逃げても逃げ切れず,隠れようにも隠れる穴が見つかりません。偉大な先生,私をどうかお守りください」とお願いしました。

先生は生きとし生けるものに分け隔てなく慈悲をおかけになっているので,この若者が可哀相だと思い,

「おお,苦しむ衆生を救わずに,慈悲を瞑想しても何の役に立とうか。普通なら私は在家の問題は扱わないが,ああお前は本当に苦しみ,今にも死にそうだ。七人の者が一人を痛めつけるとは,それは正法の教えにも俗世の習わしにもふさわしくないことだ。ではお前さん,私の数珠の緒留(おどめ)に化身して留まりなさい」とおっしゃったので,トゥンドゥプはすぐさま先生のお手元の数珠に化けました。緒留は先生が親指と人差し指の間にしっかり握っておられました。

RO2_00_04 pp.6-8 

しばらくすると魔術師七兄弟は綿布をまとった七人の行者に化身して岩穴の中にやってきて,

「おい,じいさん,さっき白い鳩がこの岩穴に飛び込んできただろう。そいつはどこにいるか。我々に返してくれ」と言いました。すると先生は目をつぶったまま真言を唱えたまま,一言も口をききませんでした。ふたたび七人の行者は大きな声を上げて,

「おいこら,お前はつんぼかおしか。鳩を返すのか返さないのか。もし返さないなら,こうしてやる」と言って,七人の行者は七匹の灰色の虫に化けて,先生の身体に貼り付いてきました。トゥンドゥプはそれを見て,驚きうちふるえて,なんてことだ,私のために先生が傷つけられてしまったらどうしよう,と思って,数珠から飛び出して,大きな鶏に化け,灰色の虫どもをくちばしでつついて殺してしまいました。するとたちどころに七体の屍になりました。

ルドゥプ先生はひどく心を痛め,

「ああ,七人の命を奪ってしまった。あまりに深い罪業を積んでしまった」とおっしゃいました。トゥンドゥプもまずいやり方をしたと苦しんで,

「先生は私の命を救ってくださいました。七人は死にましたが,その罪滅ぼしと,先生のご恩に報いるためには,私は先生のおっしゃる通りのことをいたします」と申し上げました。すると先生は,

「もう悩むでない。済んでしまったことだ。もう後悔しても役に立たない。罪滅ぼしをしなさい」とおっしゃいました。トゥンドゥプは

「どのような罪滅ぼしをすればよいのですか」と尋ねると,先生は,

「ここから西に向かってたくさんの山や谷を越えて行くと,清涼園という名の大きな墓場がある。そこにはグートゥプ,霊験を持つ者*2,という名の屍鬼がいる。そいつは腰から下は金,上半身はトルコ石からなり,頭はほら貝の髷だ。そいつを手に入れることができたら,それは実に素晴らしい霊験あらたかな物なので,われわれ世界の人々の寿命が何百年にもなり,誰もが等しく富を享受し,貧しい者が一人もいないようなところになる。その屍鬼を手に入れることができたら,罪を清めることにもなるのだ」とおっしゃいました。トゥンドゥプは,

「それはおやすいご用です」と申し上げました。

RO2_00_05 pp.8-10 

すると先生は,

「屍鬼グートゥプを手に入れるのは容易いことではないぞ。運んでくるだけなら簡単だが,お前は無言戒を守り,口を利いてはならぬのだ。これは生やさしいことではない。もし口を滑らせて一言でも話したら,手に入れることはできないのだ」とおっしゃいました。するとトゥンドゥプは,あらゆる苦難を乗り越え,屍鬼グートゥプを運びおおせて世界の人々を幸せにし,罪を清める所存ですと誓いの言葉を述べました。

行く間際に先生は,

「墓場の清涼園についたら,いろいろな大きさの死体がたくさんある。『私を運んでおくれ,私を運んでおくれ』と言ってくるものもいる。そういう輩には呪文を唱えて真言芥子を投げつけると倒れる。それらはグートゥプではない。グートゥプは倒れずに,マンゴー*3の木の梢に行って『私を運ぶな,私を運ぶな』と言う。そのときお前はこの斧『白い月』で木を切る振りをしなさい。するとすぐに屍鬼グートゥプは降りてくる。それからこの空の袋khra mo?の中に入れ,この縄rgya khres khra boで縛り,この食べても尽きないツァンバ団子を食べ,昼の道を夜すがら歩き,一言も口を利かずに私のもとに戻っていらっしゃい。もしも一言でも口を滑らせたら,屍鬼はまたもとのところに飛んで行ってしまうから心しておきなさい。お前は幸せを享受するデチューの岩穴にやってきたので,お前の名前をデチューサンボと名付けよう」とおっしゃって,旅支度を調えて[デチューサンボを]送り出しました。

デチューサンボは先生のお言葉に従って西へ向かいました。道中の多くの苦難をものともせず,墓場の清涼園に到着しました。そこではいろいろな大きさの多くの死体が「私を運んでおくれ,私を運んでおくれ」と言ってきたので,呪文を唱えて真言芥子を投げつけると倒れてしまいました。それからマンゴーの木の根元に行って上を見ると,木のてっぺんにグートゥプなる屍鬼がおり,そいつが「私を運ぶな,私を運ぶな」と行ってきました。デチューサンボは自信たっぷりに,

「師はルドゥプニンボ先生,斧は白い月よ,ツァンバ団子は食べても尽きぬ,袋はstong shong khra mo,縄はrgya khres khra bo,私はデチューサンボである。あんたのご老体が降りてくるかい,それとも老木を切りますかい」と言ったところ,屍鬼グートゥプは,

「木を切るな,私が降りていく」と行って,木の根元に降りてきました。デチューサンボは屍鬼を袋に詰め,縄で縛り,ツァンバ団子を食べながら,袋を背負って来た道を帰りました。

しばらく行ったところで,屍鬼グートゥプが言いました。

「おい,日も長いし,疲れもした。長い道のりを馬で乗り越えようにも,馬はあんたにもないし私にもない。あるいは長い道のりを話で乗り越えるなら,話はあんたにもできるだろうし,私も話せる。あんたが話して私が聞くかい,それとも私が話してあんたが聞くかい」と言うので,デチューサンボは先生の教えを思い出していいとも何とも言わずに?lo rab tsam yang ma byas par,背負っていきました。

RO2_00_06 p.10 

すると屍鬼グートゥプは,

「おお,あんたが口を利かないなら私がひとつ物語を語るから聞けよ」といってお話を語りかけてきました。

翻訳:chime
初版:2004/6/25
修正:2004/6/30

*1 gcig las gcig lhagは「一方が一方より優れている」という意味に解釈できるので,それぞれが優れた資質を持っていたという意味になるのか?
*2 dngos grub canのcanをどう解釈するべきか。名前の一部かそうでないのか
*3 原文ではa smra。マンゴーか?蔵漢大辞典にはa mraで載っている。

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