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〜 ROB_18 〜

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第十八話 口を利かない娘 

試し訳です。章立ては原文に従いました。分からないところ,自信のないところには注釈を付け,原文をWylie表記で示すなどした。chime

ROB_18_01 p.152 

デチューサンボは再び墓場に行って,前と同じように背負ってくると,屍鬼グートゥプは,

「おい若造,道中長いしお日様も照りつけるし,俺たち物語でもして気晴らしをしようぜ」と言いました。デチューサンボは心の中で,「お前に騙されてたくさん走らされたんだ。今回は絶対に口を滑らせないぞ」と思って,聞こえている様子も見せずに運んで行きました。すると屍鬼グートゥプは,

「お前が話したくないなら俺が話そう」と言って語りはじめました。

ROB_18_02 pp.152-153 

むかしツァンのあるところに,領主の息子と金持ちの息子,貧乏人の息子三人が義兄弟の契りを結んで,お互いに友情をもってどんな出来事があっても相談することにしました。ある日貧乏人の息子が,

「俺たちの村の上手に,とても美しくて血筋もよく,仕事もうまい娘がいる。[この娘のところに]毎日たくさんの男が行って結婚の申し込みをするけれど,言葉がしゃべれないかのように口を利かないんだ」と,自分の聞いた話を二人の友人に話しました。二人ともその素晴らしい娘を見に行きたくなり,知恵をひねり出してをこんなふうに話しました。

「ぼくら三人のうちその美しい娘を話す気にさせたやつが嫁に取ったらいいではないか。ぼくが嫁をもらうことになったら,金持ちの息子は財産の半分をぼくに渡す。貧乏人の息子はぼくに一生使える身となれ。金持ちの息子が嫁をもらうことになったら,ぼくの土地と畑の半分をやる。貧乏人の息子は彼に一生使える身となれ。もしぼくら二人のものにならずに,貧乏人のお前のものになってしまったら,その娘を嫁にもらえ。そしてぼくの土地と畑の半分をお前にやる。金持ちの息子の財産の半分もお前にやる」と言ったので,三人は賛成して,全員がそうしようと誓いを立てました。

ROB_18_03 pp.153 

まずは領主の息子があれこれたくらんで*1,村の上手にいる娘のところに結婚の申し込みに行きました。彼は騎馬隊と臣下をたくさん引き連れて,馬に乗り,宝物をたくさんたずさえて,娘のいるところに行きました。しかし彼がいくら豪華な品物を披露しても娘の心を動かすことはできず,しゃべって舌に水ぶくれができても,娘の口を開かせることはできませんでした。そうして領主の息子は数日間しゃべったけれどもどうすることもできず,あきらめて帰ってきました。

ROB_18_04 pp.153-154 

その後,金持ちの息子が着飾って数え切れないほどの贈り物をたずさえて,踊り子の一団を連れて,山の奥に乗り込んでいきました。そして贈り物をありったけ娘の前に並べ,ありったけの音楽を演奏して,ありったけの知恵をふりしぼったけれども,娘の心を動かすことはできず,口から一言も話させることはできず,がっかりして帰ってきました。

ROB_18_05 pp.154-157 

最後に貧乏人の息子に結婚の申し込みをする順番が回ってきました。彼には一つには華やかで目を見張るようなもので*2目を奪うこともできません。二つ目に甘くおいしいものを贈って口を奪うこともできません。ことわざに「昼間育てなければならない家畜はない。夜に見回り?*3をしなければならない財産はない」とある通り,ツァンバを一袋持って出かけました。一日行くと,ある岩穴のそばにおばあさんがいるのが見えました。おばあさんはかなり年を取っており,髪はほら貝のように白く,目はトルコ石のように青く,口には歯が真珠ほどもありませんでした。おばあさんは石の上に座り,身体を杖で支え,ため息をついていました。そこへ彼が,

「おばあさん,どこか悪いのかい。ぼくで役に立つならお手伝いしましょう」と言うと,おばあさんは顔を上げて,心やさしい若者に,

「あたしはお腹が空いて困り切っているんだよ。食べるものがあったらあたしが少しいただいてもいいかね」と言いました。若者はツァンバの袋を取り出しておばあさんにやりました。おばあさんはツァンバを食べたいだけ*4食べた後,ツァンバの袋を返して,

「心やさしい若者よ,どこに行くのかい」と尋ねました。若者は,

「おばあさん,私はこの山奥に結婚の申し込みに行くんです」と答えました。おばあさんは,

「ほう,誰の家の娘だい」と尋ねると,

「例の口を利かない娘です」と言いました。

「あれまあそれならば,その娘は領主の息子や金持ちの息子にさえも口を利かなかったというのに,あんたが行ってうまく行くのかね。その娘は一つには地位を目当てにしない。二つに財産を目当てにしない。本当に心からの愛情を持った人を待っているのかもしれないよ。あんたが行って様子を見てご覧。あんたの願いがかないますように」と言いました。若者が立ち上がって出かけようとしたとき,おぱあさんはまた,

「あたしがこれから話すことは,お若いの,あんたの心根が良いからだ。あんたに秘密の話をしてやろう。その娘は毎日,たくさんの数奇な出来事*5に思いを巡らせて悲しみに暮れ,今や人と話をしたくないんだ」と言いました。若者は,

「彼女はどんな数奇な出来事を思い出すのですか」と尋ねると,おばあさんは,

「彼女はどこで聞き及んだか分からないが,彼女がはじめ,うぐいすに生まれたとき,一日中美しい声を響かせて,遊んでいた。その後子供が三羽生まれてたいそう喜んでいた。そんなある日,川が大洪水になって,あらゆる土地が洪水であふれ,飛ぶのがまだ上手でない三羽の子供たちは水に流されてしまった。彼女と彼女の夫は子供たちを救おうと川に飛び込んだけれど,おぼれて死んでしまった。

「その後,親指鳥に生まれて,また子供が一巣分*6生まれた。ある日,小虫を捕りに行き,戻ってきたとき,羊飼いの悪がきが,火遊びをしてそこに火を放った。まだ羽も生えていない子供たちはみな火に焼かれ,また彼女と夫は火に飛び込んで死んでしまった。

「その後彼女は牝の虎に生まれ,子供が二匹生まれた。ある日猟師の一団がやってきて,彼女と子供たちは射殺された。

「今回彼女は娘に生まれて,彼女は前世のことに思いを巡らせて,親戚や連れ合いはみな苦しみの元だと思い,それで一日中悲しみに暮れ,人と口を利かないのさ。彼女の事情を詳しく話せばそんなものだよ」と話しました。

ROB_18_06 p.157 

若者はその話を全て聞いて,一つ一つ心に刻み,おばあさんに「ごきげんよう」と言って,一人で山の奥に向かいました。

ROB_18_07 pp.157-158 

娘もまた誰かがやってくるのを見て,急いで家に隠れて扉を閉めました*7。若者は素知らぬふりをして,戸口に立ってこんな風に言いました。

「ぼくらはなんて縁がないんだろう。ぼくがやってきたのを見て,きみはなぜ家の中に隠れてしまったのかい。きみは忘れてしまったのか,どうしたんだ。はじめの人生ではぼくらはうぐいすに生まれ,めおとになって幸せに楽しく暮らしていた。そのとき子供たちが洪水に流されて,それを助けるために,ぼくらは命を落とした。だからぼくらは離ればなれになってしまった」と言いました。

ROB_18_08 pp.158-159 

その話を聞いて娘はすぐに心を動かされて,驚いて,外に出て機(はた)のところに行き,毛織物を織るふりをして,若者を話に耳を傾けました。若者はその話は効果があると見て,言いました。

「ああ,きみは忘れてしまったのかい。以前ぼくら二人は親指鳥に生まれて,一生幸せに過ごせると思っていたのに,羊飼いの悪がきが巣を焼いて,ぼくらの子供を焼いた。ぼくらも火に焼かれて死んだので,またしても幸せが途中で途切れてしまった」と言うと,娘は毛織物を織るのを止めて,聞き入っていました。

「その後ぼくらは虎に生まれ,子供が二匹生まれた。そして山の上で猟師と出くわし,矢を放たれてみな殺されてしまった。今生はきみはここに生まれ,ぼくは山のふもとの貧しい家に生まれ苦しい生活を経験した。ぼくがここにやってきたのに,きみは前世のつながりを忘れ,ぼくをちらと見るなり扉を閉め*8,返事の一言も寄越さないとは思いもしなかった」と涙声で言いました。すると娘は杼*9を置いて,若者をつかんで泣きながら言いました。

「ああ!今生は何があっても私たち離ればなれにはならないわ。これまで地位のある領主様や,財産のあるお金持ちのいずれにも私は用心を怠らず*10,今まであなたを待っていたのね!*11」と言いました。

ROB_18_09 p.159 

それからというもの二人は夫婦になって,領主の息子から畑と土地を半分受け取り,金持ちの息子からは財産の半分を受け取り,幸せいっぱいに楽しく暮らしました。娘も前世のことで苦しむことはなくなりました。

ROB_18_10 p.159 

「例のおばあさんは誰でしょう。謎を解いてごらん*12」と言われて,デチューサンボは,

「娘の母親かもしれないな」と,口を滑らせてしまったので,屍鬼グートゥプは,はらりっと再び墓場に飛んでいってしまいました。

翻訳:chime
初版:2004.6.30

*1 blo thabs kyisの訳として「あれこれたくらむ」とした。
*2 khra khra rig rig gisに対応する訳として。
*3 thun paの訳として仮に記した。
*4 原文にdod tsamとあるのを'dod tsamに読み替えて訳出した。あるいはdodで何か意味があるのか?
*5 don mtshar dguの訳として。mtsharはkhyad mtsharやngo mtsharのmtsharか?
*6 tshang thengs shigの訳として仮に訳を付けたが,thengsは回数を現すので,ここをどう解釈すべきか自信がない。
*7 sgo gtanの訳として。gtanは現在収集している動詞リストの中にはない
*8 ここもsgo gtan
*9 'thag shingの訳として挙げた。要確認。
*10 brdzi ma shor barの訳として。「注意力を失わずに」という意味か?
*11 bsgugs bsdad pa yin pa laのpa laを感嘆の意に解釈したがどうか?
*12 khed dang。khedはなぞなぞの意味だが,ここでは動詞として使われているようである。この動詞は現在収集しているデータの中にはない。

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